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信州同行会 [追憶]

大学生のころ友人Fの発案で僕らは”信州同行会”なる会を作っていた。そうして気ままな仲間とともに旅にでかけた。

上高地で友人のFと撮影した古い旅行の写真が残っていて、多分これが最初の旅行じゃないかと思う。Fの日産ローレルで中央道を大月辺りまで走りその後は一般道を上高地まで走ったのだと思う。二人とも金欠だったが若さと軽いノリで楽しかった。あれは1974年の頃だと思う。

そのうちFは気ままな仲間とともに信州に出かけたら楽しいんじゃないか”信州同行会”のような会をつくってと提案してきた。同好会ではなくて”同行会”というのが妙だった。僕は大いに賛同してFは”信州同行会”と称して旅行を計画して”同行の志”を誘った。それが“信州同行会”の始まりだった。
メンバーは地元の公民館で知り合った仲間やその友人たちで、折々に気の合った数人で概ね計画がまとまればささやかなパンフレットも作った。旅行はFの乗用車1台で出かけることが多かったのでたので参加者は概ね男女2名づつ4名だった。皆は暗黙のうちに恋愛関係を持ち込まぬようにあるいは恋愛感情を表に出さないようにしていたのだと思うが異性の香りのする緊張の中に奔放さと気遣いを交えて旅を楽しんだ。
当時はナビや携帯電話など無かった。事前に準備をしていても旅に出てしまえば連絡手段は公衆電話や黒電話しかなかったし目的地へはガイドブックやドライブマップが頼りだった。今時から見れば不便なことには違いないが、行ってみなければ分からない不確定さと何かあっても気ままに連絡できない不自由さはささやかな冒険に立ち向かう気分と自立的あるいは自律的な気構えをもって旅に出た。
そうして遠い旅先の向こうには何かしら希望と憧れがあった。見知らぬ地に身を置けばそこは新鮮な刺激に満ち人と時と自分を見つめ直す機会になり驚きと新たな気づきが多かった。僕らはそれぞれが夢や期待、恐れや不安を抱きなが見知らぬ地に自分を映して人と自分とその先にある何かを探し求めていた。1974年から1978年にかけてのこと・・・
軽井沢、浅間、嬬恋、草津白根、志賀高原、長野善光寺、戸隠、鬼無里、大町、木崎三湖、安曇野、松本、美ヶ原、霧ヶ峰、蓼科、八ヶ岳、清里、高遠、駒ケ岳、乗鞍、上高地・・・いろいろなところを回った。”信州同行会”と言いつつも僕らは、金沢、尾小屋、岐阜、郡上八幡、姫路、岡山、倉敷、そうして小豆島まで足をのばすこともあった。

1976-haru shirane-kinasa05-1.JPG

春、志賀高原を経て水芭蕉が咲く鬼無里を抜けて白馬まで周遊したことがあった。鬼無里から白馬に抜ける峠で見た夕焼けの鹿島槍の姿を今でも忘れられない。


1978年、大学を卒業して仕事をするようになると僕らの仲間は信州同行会を名乗ることなくの気の合ったもののグループでよく信州に出かけるようになっていた。
1979年の夏休みには僕と妻(当時は結婚していなかった)は松本に逗留して日がな毎日を松本周辺で過ごした。ホテルで朝食をとりながらその日の行く先を決めて乗鞍、上高地、安曇野、白馬、麻績、霧ヶ峰、美ヶ原など涼しいところでのんびりした。そんなある日僕らが松本に逗留していることを知っていた友人の一人が僕らの泊まっているホテルの部屋をとってくれと電話してきた。訳を尋ねると乗鞍の雪渓を滑るのだという。翌日その友人はいわゆる愛称”クジラ”のルーフにスキー板を載せて真夏の松本にやってきた。また別の日には他のグループと旅先で落ち合うなどもして遊んだ。
松本に逗留してある日僕は彼女を善光寺に誘った。篠ノ井線で行けば聖高原を抜けて姨捨の駅ではスイッチバックとホームからは善光寺平を一望できる。僕は善光寺よりもそれを彼女にみせたかった。僕は篠ノ井線の時刻を確認して一人彼女を明科の駅で長野行きの列車に乗せた。彼女は篠ノ井線の列車で僕は車でそれぞれ長野駅に向かい待ち合わせをする約束にしたのだ。
長野へは国道403号を明科から聖高原のワインディングロードを抜けてゆく。少し飛ばしても列車には間に合わない。僕は列車よりも20分ほど遅れて長野駅に到着し、先に着いているはずの彼女を駅前に探したがどこにも居なかった。いったいどうしたのかと心配をしても連絡するすべはない。当てなく捜し歩いてもどうにもならないので、じっと彼女が来るのを待つほかはなかった。そうして長野駅前で待つこと2時間。遅れてきた彼女は満面の笑顔で、姥捨駅でホームに出たら風が気持ちが良かったのでしばらくベンチに佇んで列車を1本やり過ごしてから長野に来たのだと・・・。それは僕が見せたかったものを堪能したということなのだが・・・。

その翌年に僕らは結婚した。そのころ妻は身籠っていたので僕らは新婚旅行と称して結婚休暇を松本に逗留して冬の安曇野でのんびり過ごした。そんな僕らは“いまさら、また信州に出かけるのか”と冷やかされた。
旅に出て見知らぬ地に立てば自分が帰るべきところが際立ってくる。夢に誘われ、憧れに担われて、かけがえのない瞬間だった。


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