SSブログ

フライフィッシングのきっかけ [釣り]

今から三十年ほど前、私は妻(当時は結婚前だった)と両親を連れて山梨に旅をしたことがあった。富士宮から身延を巡り、帰りには甲府城址に立ち寄った。城址には石垣だけが残っており、私たちは天守跡まで登り遠く霞む甲府盆地を眺めていた。ふと目を落とすと石垣の下の広場には十数m先にバケツを置いて白っぽく長いラインをつけた竿を振る人がいた。当時は今のように釣りをするなど考えたことは無かったが、長いラインを振り回す釣法があることはぼんやりと知っていた。いま思い返せば、オーバーヘッドキャスティングでアキュラシーの練習でもしていたのかもしれない。私はこの時初めてフライキャスティングを目の当たりにしたのだった。それ以来ずっとそのラインさばきが気になっていた。

それからおよそ十年後、時は春、当時オートバイを趣味にしていた私がバイクショップでたむろしていると、バイク乗りである友人が釣の帰りにショップに立ち寄った。聞けば近くの池でフライによるバス釣りをしてきたという。いつかは釣りも趣味にしたいと思っていた私は、その友人にお願いして初めてフライロッドを振らせてもらった。ポイントを狙うわけでもなくただフォルスキャストをしただけだったが、私の脳裏には甲府城址での記憶がよみがえり、#5のオレンジ色のラインが宙を舞い、私は不思議な感覚に満たされていった。
小さい頃から川で遊んではいたが釣りのことなどほとんど知識はなかった。それでも、これ(フライフィッシング)で釣がしてみたい、そう感じて居ても立ってもいられないような気持ちになった。

週末、私はその友人に無理やり同行をお願いしてにはフライフィッシングセットを購入しにいった。フライフィッシングの知識は何も無かったし釣道具屋も知らないので同行してもらうしか手はなかったのだ。セットから取り出したリールやロッドには不思議に惹かれるものがあった。
翌日は近くの小川に向かった。夢中になって繰り返し小さな毛鉤を流すと小さなオイカワが釣れてきた。フライはオイカワ用に#20のフックに巻かれたスタンダードパターン。その友人が巻いてくれた唯一だったがキラキラと輝いていた。幾つか巻いてもらった小さな毛鉤はすぐに無くなってしまった。さりとてセットに入っている#14のフライではオイカワは釣れない。そう、毛鉤は自分で用意しなくてはいけないのだ。こ
うして、翌週末には再度友人に同行をお願いして今度はフライタイイングセットを購入しにいった。インディアンハックルが入ったタイイングセットだった。このセットのタイイングバイスは自宅に帰りつく前にファミリーレストランのテーブルに据え付けられることになった。たまらなくなった私が友に無理やりタイイングの手ほどきを受けるためだった。

5月の連休には近くの川でオイカワを追いかけ、そのあとも毎週末、川に入った。オイカワ、ウグイ、アブラハヤ、魚種は何でも良かった。フライフィッシングでヤマメやイワナが釣れるのだということは聞いてはいたが、ヤマメやイワナはある種の別世界にいる魚であって、取り立てて興味を示す対象でもなかった。そんな調子だから釣りのために奥武蔵の渓に入ることさえある種の冒険に似た気分であった。それよりも毛鉤で釣れることへの興味と、その向こうにある気持ちのよい流れを求めて釣り場は少しづつ広がっていった。そうして、名栗川、高麗川、越生川、都幾川、規川と釣り歩き、その年の夏に、ついにヤマメに出逢ってしまった。

都幾川の大野付近、中力の砂防ダムの上の小さな流れ。右岸の葦ぎわに立ち、透き通った流芯に稚拙なスタンダードフライを流した。上手くフライを銜えられない魚を相手に繰り返しフライを打ち込んだ末に釣れたのが初めてのヤマメだった。
大きな目と大きな口、綺麗なパーマークに小さな斑点、透き通る鰭。小さくとも息を呑むほど美しい魚体に感動し、私はそのヤマメを流れに戻した。あれから十数年、今でも渓とそこに棲むヤマメに畏敬の念を禁じ得ない。


                           2001年早春“上の区間”にて


nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 2

troutwalker

初めまして失礼致します。
写真が奇麗でつい見入ってしまいました。
ちなみに私がフライを始めたきっかけは、海釣りはした事あったんですが新しい事を始めようとグレインの入門セットを買ったのが最初です。
そこかはタイイングセット買ったりと泥沼です・・・
これからも宜しくお願いします!
by troutwalker (2007-11-13 21:59) 

Otho

> troutwalkerさん
私はコータックの入門セットが最初の道具でした。タイイングセットはインド製でした。そのうちの幾つか今も手元にあります。
手に馴染んだ道具は捨てられませんし、信頼している道具には知らず知らずのうちに手が伸びていますし、数も増えています。
泥沼もままよとばかりに飛び込んでしまえば、案外、浮世の桃源郷かもしれない思うこともあります。
by Otho (2007-11-15 23:18) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0