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週末 [追憶]

初めて妻を軽井沢に誘ったのは、もう何十年も前のことになる。
特別にどこを見て回るでもなく、銀座通りを歩いたり、あるいは追分の方へも行ったりしたと思う。私にとって彼女は愛らしく慕わしく守るべき人であったから、だから私は彼女を惹きつけて騎士のように振る舞えれれば幸せだった。

静かな6月の晴山館の朝、二階の窓からは朝露に濡れた芝の緑が鮮やかに靄の中を遠くまで続いていた。朝食は一階の窓際のテーブルに相向かいの席で何の飾りもない食器とシルバーが並べられ、あれは、たしか半熟の卵と暖かいパンと紅茶だった気がする。
今では簡便にミルクも入れないコーヒーを嗜むが、若い恋人には紅茶の方がその優しさが似合う気がする。

週末には軽井沢に行く。
人混みを貪るように観光地を巡るのは、何かしらあさましい気分がして好きになれない。だから、5月や8月の軽井沢は好きではない。
6月の静かな緑鮮やかな頃や、11月の紅葉が落ちた頃が好きだ。
冬には暖かいホテルのロビーで冬枯れの林を眺めるのもよい。愛おしい人とならば尚更でもある。
何かしら、遠い記憶がある。

遠き旅路にゆく人は
いとしきものをともなえよ
よろこびわらうよそびとの
などかかえりみん旅人を
・・・アイヘンドルフ

週末に妻を万平ホテルに誘っている。
立原道造や室尾犀星を口実にして・・・
(妻へ、昔の様に堀辰雄ではないぞ)

 


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